―――――――――――――――――――chapter12 変わった声―――――――――――――――――――

 眠れない。頭が痛い。

 雑音が流れ込んでくるようだ。なんだかこの感じ覚えがある。まさか…

 *「…ンゴ。…ザザ…元気か?…ザザ…調子はどうだ??」
 それはここに来てから2日目の夜にも聞いたナゾの声だった。

 *「俺はどうにもお前のことが心配だ…ザザ…ザ…もう調査隊には入ったのか?…ザザ…」
 せめてこっちから干渉できればなぁ

 「おい、お前は誰なんだ?」
 と俺はおもわず大きな声を出した。

 *「おい!…ザ…通じるようになったんだな?…ザザ…良かった!…ザザ…」
 そのナゾの人物は安堵の声を上げた。
 
 「俺の声が聞こえるのか?」
 この間は聞こえなかったみたいだけど。

 *「もちろん…ザザ…聞こえるさ…この間は…上手くいかなかったが、…ザ…今回は成功だな。」

 「お前なら知ってるんだろう?俺は一体誰なんだ?」
 俺は一番の疑問をぶつけた。

 *「あらかたの事は…ザザ…この間話したと思うが、…ザ…自分の事について…ザザザ…何も覚えてないとして

も、…それは一時的なものだ。…ザ…すぐに思い出すさ。…それよりもう…ザ…調査隊には入ったんだよな?」
 この人物の言ってる事が正しければ、すぐに思い出せるらしい。でもなんで解るんだろう?

 「あぁ、もう入ったよ。それが何か関係あるのか?」

 *「入ったって事は、…誰かと一緒に…ザ…やってるんだな?」
 
 「チコリータのチコって女の子と一緒だ。チーム名はS&Tだよ。」

 *「そうか。…ザ…それなら安心だ。…ところで今、何曜日だ?」
 なんで安心なんだ。俺一人じゃ頼りないのか?

 「水曜日だな。」
 まだ日付が変わってなければ。

 *「なるほど…ザザ…もう水曜か…ザ。大丈夫、そのまま…ザ…調査隊を続けろ。…ザ…そうすればきっと奴らを、、、」
 その人物は言葉を選んでいるようだ。

 「きっと?」

 *「いや、…いい。…ザザ…きっと…ザ…上手くいくさ。」
 何が上手くいくんだろう?よく解らないが、その人物の言葉には俺の事を気遣っている気持ちがあふれていた。

 *「そろそろ限界だ。…もう会うことは無いと思うが、…ザザ…頑張れよ!…ザ…じゃぁな!!…(プツン)」

 この間『近いうちにまた会う』って言ってたのはこの事だったのかな、姿は見えなかったが、やはり俺の事をか

なり知っていて、しかも心配しているのが感じられた。

 一時的な記憶喪失、調査隊への参加、曜日を確かめたこと、それらの意味を考えても、今の俺には何のことやら

さっぱりだ。

 色々考えてみたが疲れていたのかいつの間にかまた寝てしまった。


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 「シンゴ!朝だよっ!」

 「ふわぁあ…うん、おはよう、チコ。」
 不思議な声で一度起こされたからか、目覚めが悪いな。

 「さ、今日は修行を積む日よ!」
 あ、そういえば昨日の夜そんな事を言ってたっけ。

 「修行って何やるの?リングマと戦ったり、瓦を割ったり、滝に打たれたりするの?」

 「ははは!やるかもね!」
 えぇえ!?

 「って言うのは冗談よ。でも『ザングースの鍛錬所』さんには、私も行った事がないから、詳しくは知らないんだけれど。他の調査隊から聞いた話では小さなダンジョンみたいなところが沢山あるって聞いたわ。」
 小さなダンジョンいっぱい…ねぇ。

 「さ、ご飯食べたらさっさと北の道を通って行きましょ」
 チコって迷いが無いなぁ。

 「そういえば、昨日の夜地震があったけどシンゴぐーすか寝てたね。」
 昨日の夜?

 「えぇ?本当に?」

 「うん、結構大きい地震だったよ。だから私、シンゴ起こそうかと思ったくらいなの。でもしばらくしたらおさまったけど。」

 「いや、全然気が付かなかったよ」
 昨日変な声で一度起こされたからかなぁ。

 「今度あのくらいの地震が来たら、きっとシンゴ眠ったまま潰されちゃうよ!」
 チコは笑いながらそう言った。笑い事じゃないって。ほんとにそんな大きな地震があったのかなぁ。チコはふざけてそう言ってるだけかもしれない。

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 北東の道を2回通った事があるから、大体想像が付いたけど、北もけっこう険しい道のりだな。

 見えてきた。今までの商店や倉庫とは建物の造りが違うな。瓦屋根で壁はふぞろいな石壁になっていて、ワイルドな感じになっている。

 「ごめんください。」
 チコはおそるおそる中に入った。

 中にはザングースがごろ寝していたが、俺たちに気が付きこっちを向いた。

 「なんだぁ?てめぇら。」
 ザングースの声はけっこう低い。発言の内容といい、どう考えてもヤンキーだ。よし、帰ろう。

 「あ、あの…」
 チコはその迫力にビビッている。ドンとはまた違った威圧感だな。

 と、ザングースは俺たちの調査隊キットを見て全身の力が抜けたように見えた。そして、
 「なんやぁ、お客はんかぁ。そうならそうと最初にゆうてぇな。」
 と頭を掻きながら言った。営業に入ると言葉遣いが変わるらしい。

 「あんさんたち、昨日の夜は凄い地震やったなぁ。ほんでさすがのわいも一度起こされてしもうてん。今うたた寝しとったとこやねん。」
 地震、ほんとにあったんだな。

 「おふたりさん、ここに来るのは初めてやな?」

 「は、はい。」
 変化についていけないチコリータ。ドーブルさんよりはマシな気がするけど。

 「ちょっと待ってぇな…え〜っとまずここの説明、させてもらいます。」
 ザングースはどこからかメガネを取り出して、かけた。ひょっとして近眼なのかなぁ。

 「ここは調査隊のみなはんが、修行を積むためのとこで、3階までの小さなダンジョンがぎょうさんあるわけや。ちなみにダンジョン内で出てくるポケモンのみなはんは全員ボランティアとなっとります。ってなわけで修行の代金なんやけど…」
 ザングースはどこからかそろばんを取り出して、爪ではじき出した。どこから出したんだ?

 「なんとこれだけなんや!」
 そろばんを差し出したが一つも玉の位置が変わってないぞ。

 「えっと、タダってことかしら?」
 あ、そうか。

 「あんさん達もノリが悪いなぁ。もう少しなにかボケはなかったんかいな?」
 ザングースはつまらなそうにそう言った。って言われても。ひょっとしてこのそろばんはこのボケの為だけに用意したのか?今までの言動から察するに充分ありえそうだ。

 「以上でここの説明はほぼ終わりや。なにかわからへん事、あったら言うてぇな。」

 「特にないわ。よく解ったわ。ありがとうザングースさん」

 「『ザン』って気軽に読んでくれてええよ。にしてもいちいちしょうもない説明やろ?。ここまで苦労して来てんねんから、ここがどういう所か知らへん奴なんて来ないっちゅうねん。でも規則でせにゃならんのやけどな。毎回、面倒くそうてたまらんわ。誰か代わってくれっちゅうねん。」
 じゃぁなんで店主なんかやってるんだよ。でも最初の印象と違っていい人そうだな。

 「そや、忘れとったわ。修行の間はタイプ別に全部で17あるんやけど、あんさんたちビギナークラスが入れるんは、えーっと…ノーマルの間、草の間、炎の間、水の間の4つだけやな。」
 ザングースはリストみたいなもので確認しながら言った。だから、どこから出したんだよ?

 それにしても、この人面白いな。もう少し見てようかな。

 「どうする、シンゴ。まず小手調べにノーマルといってみましょうか?」

 「そうだな。」
 なんとな〜く楽そうだし。

 「じゃぁザングースさんノーマルの間をお願いするわ。」
 
 「ほな代金150ポケな。」
 お金取るの!?。

 「えぇ!?。さっきタダって言ってましたよね?。」
 チコも俺と同じ疑問を抱いたようだ。

 「それは修行の代金の話やで。別途、鍛錬所への入場料いただきます。講釈料込みでこの値段やでお得やろ?。」
 軽く詐欺じゃないか…。

 「しょうがないわねぇ。」
 チコはしぶしぶ150ポケ払った。

 「おおきに。あとこれ各修行の間までの地図や。50ポケな。」
 また増えたよ。

 「えぇ!?他にはお金かかる所無いでしょうね?」

 「今のところ無いで。」
 今のところってなんだよ!?

 「別に払わんでもええんやけれど、違う間に入ってあっさり倒れても知らんで。…それに倒れたら介抱料500ポケかかるしなぁ。」
 ザングースは最後のセリフは呟くように言った。高ぇ!。
 
 「解りました!いただきます。」
 500払うよりゃましだ。

 その地図はどこからどうみてもザングースお手製だった。汚ねぇ字で白い紙に簡素な説明が書いてあるだけだ。

 「ほな、修行頑張ってな。」
 満足そうな顔でザングースは言った。

 「そうそう、倒れてもわてがいるさかい。大丈夫やで。」
 大丈夫じゃないよ。

 隣のチコを見るといつもより、一段と気合が入っている。

 「シンゴ、100ポケ後でちゃんと払ってよね。」
 と言った。へいへい。

 「じゃ、行きましょ」
 
 ザングースの鍛錬所には後ろに洞窟があって、そこを抜けると、真っ直ぐの道の両側に8つずつ道が伸びていく、計16個の分かれ道とそのまま奥まで続く道があった。

 「ノーマルの間は…最初の分かれ道を左折ね。そのまんまじゃない。」
 ちょっとぼったくられた感。

 「じゃぁ、シンゴ、行くわよ」
 チコは手を出した。

 「S&T初修行成功を祈って…ファイト!」
 『え?お金?持ってないよ?』とかボケようとか思ったけどやめておいた。


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 3階しかないのは解ってるし、途中からダンジョン内には適度に食料も落ちてるらしいと解ったので、いつもと

違い階段を見つけてもすぐには昇降せずに、すべての部屋を出来るだけゆっくりまわるようにした。

 「そのほうが修行になるもんね」
 とチコは言った。確かに200ポケも取られたし、出来るだけ強くなりたいな。

 *「あ!お久し振りです!チコさんにシンゴさんですよね?」

 「オタチじゃない!どうしたの?こんな所で?」
 そこにいたのは、3日前に依頼で一緒に疾風の草原を突破したオタチだった。そういえばこんな奴いたな。

 「バイトですよ!。あと、臆病なのも直したいと思いまして。この性格じゃ一人でダンジョンも突破できないですからね。」
 さっき誰かが全員ボランティアって言ってたのは幻聴だったのかな。

 「そういえば、あの時なんであのダンジョンを突破しようと思ったんだ?」
 ふと疑問に思ったので聞いてみた。

 「あ〜あれはですね、ダンジョンを抜けられたら飯おごってやるっていう賭けを友達としまして。」
 でも自信が無かったから、調査隊に同行を頼んだと。ズルくね?

 「無事勝てましたよ!ありがとうございます。」
 …どういたしまして。

 「あ!こんなことしてる場合じゃありませんね。行きますよ!『たいあたり』っ」
 いきなりっ!?

 長く修行する為に俺たちは通常技を繰り出す。

 「うわぁあぁあ。やぁらぁれぇたぁ…」
 早いな!?そしてわざとクサ過ぎるだろ。

 「では、私はこれで失礼します!」
 と言って、オタチは去っていった。この修行の間の人で何かを言いながら去ったのって初めてだな。

 

 それ以降は特にこれと言ったイベントも無く、ノーマルの間、草の間、炎の間、水の間の4つを何回も巡ってもくもくと修行を続けていった。

 午前中いっぱいまでやった成果を確かめるために、俺とチコはひとまず修行の間を出てもう一度銀の洞窟に行く事にした。
 
 「おぉ、帰ってきたな。修行はもうええんか?」
 俺たちがそう決めて戻ると、ザングースの脇にはカクレオンが持っていたものと同じデザインの金貨を入れる袋があった。多分売り上げを数えていたんだろう。

 「ちゃんと途中で倒れないでこなせたわ。」
 
 「残念やなぁ結構倒れる奴多いねんけどな。」
 本当に残念そうだ。この人表情豊かだな。

 「ほんま残念やね。」
 チコはザングースにふざけて、そう返した。

 「そうそう!それが修行の成果や!!」
 えぇ!?

 「なんでやねん…」
 あ、やべ俺にもうつったわ。

 「それやそれや。あんさんもええで〜。その内二人でコンビ組めるで。」
 ひょっとして、こういう場所なのか?

 チコは続けて、
「そやね。なんならサイン書いとこか?」
 と言った。わざとやってるんだろうか?。チコって一体、、、。面白い女の子だなぁ

 「はっはっは。じゃ、おおきに〜。また来てな〜。」

 「じゃぁね、ザングースさん。面白かったわ。」
 あ、戻った。



 リストランテでいつものように昼食を済ませ道具も商店で昨日と同じオレンの実とリンゴを2つずつ準備した後、俺たちは銀の洞窟に向かった。


―――――――――――chapter12 変わった声:END chapter13 すべての原因 に続く――――――――――