―――――――――――――――――――――――mission2―――――――――――――――――――――――

 車で隣町に向う途中、ずっと眠っていたキノガッサが目を覚ました。キノガッサと同じく、ユウガの運転する車の後部座席にいる俺は、相手をしてやろうとしたが、そっぽを向かれた。冷たい奴。

 運転に集中していたユウガも少ししてキノガッサが目を覚ましたのに気がついたらしい。

 今、ユウガが運転している車は、デボン社所有のもので、ワゴン車だ。白塗りのその車体にはもちろん『「モンスターボール」のDEBON』とでっかく書いてある。

 正直、機材を運ぶこともあるから大きな車を使っているんだろうが、普段使うのにはでかくて邪魔くさいウドの大木だ。小回りが利かないし、狭い道はひやひやものだ。外出する際には必ずこれを使わなきゃならんのがすごいめんどくさい、とユウガは前に言っていた。俺もそう思う。

 そのでかい車に、俺とユウガとキノガッサ3人だけしか乗ってないので、スペースが有り余っていた。その有り余る空間でキノガッサがちょろちょろしないかと心配したが、どうやら案外大人しい。様子がわからないのでじっとしているだけかもしれないが、今のところは『借りてきた猫』って感じだ。

 風景を眺めるのにも飽きてくるし、本当はユウガとあれこれ話したいが、ずっと前に運転中のユウガに話しかけたら、『集中してるから邪魔するな!』って感じで凄い怒られたから、運転中は黙ってるしかないな。

 肝心の風景といえば…町を出てちょっとしか経ってないのに、もう回りは岩山だらけだ。地元の人で無い限り、この岩山を抜けると町がある、なんてとてもじゃないが思わないだろう。

 その険しい道のりにたまにハンドルが取られそうになるらしい。本当に使えないなこの車。

 ユウガの持ってる車を見たことがあるんだが、黄色い角ばったボディでオープンカーの車体にごつごつのでっかいタイヤ、フロントにはガードするための柵のようなもの、それとでかくて丸いライトがついてる。

 よく冒険ものの映画で使われる車だから、見ればわかるだろう。もちろん4WDだ。『オフロードカー』という種類らしい。こんな車だし、一般的な大衆向けの車と比べると、やっぱりそれなりに値が張る。でも少ない給料一生懸命ためて、やっとこさ買ったらしい。この車に乗るのが夢だったんだと。

 どう考えてもこんな道を通るなら、こんなかっちょ悪い車より、そっちのほうが断然いいだろう。

 少したってから、ユウガは運転席と助手席の車の窓を開けた。以前もそうしたので、もちろん目的地についてから、なんでそんなことするんだ?と聞いたら、普段はオープンカーだからこのほうが落ち着くんだとさ。

 それにしても悪路だ、ガタガタガタと揺れて、その内ひっくり返るんじゃないか?ってくらい。一応町と町を結ぶ道なんだから、舗装ぐらいして欲しいもんだ。

 あまりにも暇なのでまったく相手をしてくれないキノガッサをからかってみようかな…とも思ったが、どうやら寝てしまったようだ。知らない人間の運転する車で寝れるなんて…けっこう大胆な奴だな。

 俺はしかたないので、ほとんど代わり映えの無い風景でも眺めることにした。ほとんどシートの後ろとユウガの後頭部の前を見るよりかは、幾分かマシであろう。

 悪路の為時速40kmも出てないとはいえ、多分野生のポケモンがいたとしても、とてもじゃないが確認できないだろう。そもそもこんな所にいると思えないしな…。

 これがユウガの車なら中に設置してある機械で音楽が聴けるから、暇も潰せるだろうが、もちろんこの車にはそんな無駄な設備は無い。ユウガの車にはガムボトルまで置いてあるのにな…。そうそれに俺の好きなチョコまでも…。でも、ユウガは『これは何かあったときのため』とか言ってた。でも、『何か』って俺が乗るってこともカウントしているみたいだ。

 岩山…

 でかい岩山…

 たまに空…

 あ、今の雑草か?

 小さな岩山、、、

 駄目だ、こんな風景見たって面白くもなんとも無い。暇すぎる。いっそ寝ようかな。今考えられる範囲内では一番有効な暇つぶしな気がする。

 と思ったとき、その茶色い岩山には明らかに場違いな色と形の物体が俺の視界に一瞬入った。なんせ岩山の頂上付近にいて、遠かったのでよく解らなかったが、それは紺色っぽい色をしてたようで、ちょうど人間くらいの大きさの生き物に思えた。ユウガは運転に夢中で気が付いてないみたいだ。

 今のはなんだったんだろう?、この辺を調査している調査員だろうか?でも調査員ならこんな険しいところだし、複数人で来てるはずだよな…。

 やっぱり野生のポケモンだろうか?でも紺色で人間くらいの大きさのポケモンなんていたかな?…しかもこんな辺鄙な所に住んでいるし、とてもじゃないが普通のポケモンとは思えない。

 一人で考えていてもしょうがないので、怒られるのを覚悟でユウガに聞くことにするか。…もしかしたらユウガも見ているかもしれないし。

 と俺が声を掛けようとした瞬間、、、『ドズン!』という音がして車は急停止した。声をかけようとしていた俺は、その衝撃で前の座席に頭をぶつけた。いてぇ、こぶになったんじゃないか?。キノガッサも今の衝撃にビックリして目を覚ましたようだ。何があったの!?とでも言いたげに回りをキョロキョロしている。

 運転していたユウガは急いでドアを開けて外に出る。そして頭を低くして、タイヤを見出した。

 大体想像はつくが俺が『どうしたんだ?』と聞くと、ユウガは『タイヤが砂に埋まっちゃってね…』と苦笑いしながら答えた。多分たまたま柔らかい砂地の上に乗り上げたんだろう。

 やっぱりな、こんな車でこんな道を通れば、そりゃぁそうなるさ。ユウガはしかたなく車を押しだした。俺も車をすかさず降りて、手伝う。

 全力で車を押しているが、びくともしない。

 車を押していると、中からカリカリと何かを引っかくような音がする。どうやらキノガッサが窓を傷がつかない程度に軽くツメで引っかいているようだ。ユウガが気が付いて、ドアを開けてやるとキノガッサは自分も車を押すのを手伝いだした。さっきまで散々冷たかったけど、なんだかんだいってけっこう律儀な奴だな。

 3人で押し出したが、上手いことタイヤが埋まってしまったらしく、ビクともしない。せめてあと1人くらいいれば、ユウガが運転席に座り、エンジンをかけたまま押す、というのが出来るかもしれない。

 あと一人…ふとさっきの人影らしきものを思い浮かべる。あれはなんだったんだろう…?

 *「人間か…」
 
 え?なんだ今の声は。空耳か?いや空耳ならこんなクリアに聞こえるわけが…。

 そんな考えを巡らしていると、突然後ろのほうに何かが降り立った気配がした。

 俺が思わず振り返ると、そこには今まで見たことも無い、ポケモンがいた。

 そのポケモンは紺色と黒の2色の体色をしており、胸のあたりだけはクリーム色のふさふさの毛が生えていた。

狐や犬のような顔つきをしており、その瞳はまるで何もかも悟っているように落ち着いて見えた。姿形はほぼ人間のそれに近いが、手の甲と胸にトゲが1本ずつ付いており、後頭部にはまるで髪の毛か何かのように見える4つの房を持っていた。

 体形と色からみてさっき岩山の頂上付近に俺が見た生き物に間違いないだろう。

 それにしてもまったく着地したような音がしなかった。おそらくはあの岩山から駆け下りて来たんだろうが、もう少しそれらしき音が聞こえても良さそうなものだ。

 それにしても…こんな所に住んでるなんて、もしかしていわゆる『伝説のポケモン』って奴か?

 知らない人の為に言っておくが、伝説のポケモンというのは、とてつもなく、ある一方向に特化した能力を秘め、使いようによっては、世界を滅ぼすことも出来る。決して大げさな表現ではない。ただ全世界にたった1体しかおらず、しかもべらぼうに強いので、『四天王』級の…おっと四天王っていうのはこの世界で一番強い4人のトレーナーで、『チャンピオン』も加えれば5人いる。まぁこの話は今はあまり関係ないから詳しい説明は省かさせていただく。で、その四天王級のトレーナーであっても、捕まえるのは困難であろう。また、捕まえようとしても、広い世界だ、目的の伝説のポケモンにめぐりうのさえ難しい。

 ユウガも俺に少し遅れて、そのポケモンの存在に気が付いたようだ。見たことも無いポケモンの出現に俺と同じくユウガも戸惑う。なんせ何の目的があってここに現れたのか解らないからな。

 と、突然そのポケモンは車のほうに走ってきた。突然のことにユウガはとっさに『な、何をするっ!』と言ってそれを止めようとした、しかしそのポケモンは落ち着いた声で、

 *「押すのを手伝ってやる…」

 と言った。意外な答えに俺もユウガも驚く。俺たちの表情を見て、そのポケモンは『そのキノガッサ、見たところ少し弱っているようだ。お前らの『波導』から察するにお前ら今、キノガッサを病院に連れて行こうとしているのだろう?弱っているポケモンが無理をしているのをあまり見たくないんでな。』と甘い声で答えた。

 続けて、『それに私の住処にいつまでも居られては、目障りでしょうがない』だそうだ。まぁそりゃぁそうでしょうけど。

 それにしてもこいつが言った『波導』ってなんだろう?あのデボンの中に居ても知らないんだから、相当コアな言葉なのだろう。表情から察するにどうやらユウガも知らないみたいだ。おそらく見た目には元気そうなキノガッサが弱っているという事が解った事と、俺たちが今からしようとしてることが解ったという事に何かヒントがありそうだが、それ以上は解らなかった。

 ユウガは状況に混乱したのか少し上の空だったが、そのポケモンが車の後ろを押しだしたのがきっかけとなり、頭の整理が終わったらしく、急いで運転席に付き、エンジンをふかす。

 パッと見にもけっこう力がありそうなそのポケモンが車を押すのに加わったからか、完全にはまってしまっていたタイヤが少しずつ前に進んでいくのがわかった。

 しばらくして車輪がしっかりと地面を捉えられるようになった。それを確認するとその謎のポケモンは車を押すのを静かに止め、凄い跳躍力と尋常ではない速度で、視覚に入るかどうかといったあっと言う間に、どこかに去ってしまった。さっき音も無くこいつが現れたのはこの能力のためか。

 車が砂地から開放されたので、ユウガは運転席を降り、後部座席のドアを開けた。キノガッサはそれに従うように車に乗り込んだ、見た感じだいぶ元気になってきたな。俺は今度は助手席に乗り込む。

 少し経ってユウガが運転中なのに珍しく話しかけてきた。『なぁ、さっきのポケモン…喋ってたよな?』、確かに、そうだったな。解ってると思うが、普通のポケモンはただ鳴き声をあげるだけで、本当なら人間の言葉を喋れるわけが無い。

 俺がそう言うと、さらにユウガは『あれ、ひょっとして伝説のポケモン…って奴じゃないのか?』と聞き返してきた。まぁこんな所に住んでいる時点で普通のポケモンとはとても思えない。…という俺の考えにユウガも同意した。

 色々言い合って、結局隣町に着いたら、早速会社に問い合わせてみよう。という事で合意した。なんだかワクワクするな。もしかしたら誰も見たことの無い新種のポケモンだったかもしれない。


 隣町に着いた頃には外はすっかり暗くなっていた。ポケモンセンターは24時間営業とはいえ、なるべく早く診てもらいたいので、受け付けに急ぐ。

 受付に行くと、ジョーイさんがすぐ『あ、ドウハ ユウガ様ですね?』と確認してきた。どうやらすでにさっきまでいた町のポケモンセンターのジョーイさんが連絡してくれていたらしい。

 そのおかげで受付はスムーズにすんだ。薬もすでに用意されていたみたいだ。薬の飲ませ方は夕ご飯の中に混ぜて飲ませるらしい。

 ポケモンセンターの中にはたいてい簡単なファミリーレストランが用意されており、ポケモンの食事もそこで食べさせることが出来る。

 ユウガと俺は薬を飲ませるためにも、ここで晩飯を取ることにした。どうせ独身だし、誰も文句言うまい。一応そのいきさつを会社に連絡する事にした。

 ついでに会社にあるポケモン検索機能で、謎のポケモンの事を調べてもらったが、どうやら情報が無いみたいだった。

 こ、これはチャンス!え?なぜって?。決まってるじゃないか、会社に情報が無いということは、おそらくこの世界でも俺たちが第一発見者だろう。そんなポケモンだから明日また同じ場所に行って、居るとは限らないが、なにかの手がかりぐらいはつかめるだろう。ドウハはこれでも研究者だ、こんな話にワクワクしないわけが無い。明日会社に行ったら早速このことを社長に伝えよう。と言っていた。

 まさかあれは本当に伝説のポケモンだったんじゃ…そうだとしたら大発見だぞ!

 たかばる気持ちを抑えながら、とりあえず腹の虫を黙らせるために、食事を取る事にした。

 ポケモンセンターのレストランのメニューは人間用もポケモン用もかなりの品揃えだ。ポケモン用メニュー、というと想像がむずかしいかもしれないが、ここのは人間用のメニューとほとんど変わらない。俺の好きなチョコレートたくさんのチョコレートパフェもある。とは言っても入ってる材料はポケモンに応じて微妙に変えてある。さらに人間でも食べられるもので作ってあるが、人間が食べると全体的に味が薄く感じられるらしい。

 注文した料理がテーブルに来て俺とユウガは早速食べだす。キノガッサは匂いをクンクンと嗅いでいて、なんとなく警戒していたようだが、すぐに食あたりを直す薬入りのご飯を食べだした。一連の動作のみ見ると、もの凄い利口に見える。ただ単にお腹がすいていただけかもしれないが。

 さて、今日は遅いからここに泊まるか。今から帰ろうと思ってもあの悪路をいくのは面倒だ。それに、街灯もない。月明かりを頼りに行けば何とか…なんていうのは素人の考えだ。、多分岩山に阻まれて弱い月明かりなんかほとんど届きやしないだろう、それで迷うのが関の山だ。

 そうそう、俺の言動から解ったと思うが、ポケモンセンターの中にはけっこう豪勢な宿泊施設がある。ハンモックや寝袋を想像していたら大間違い、なんとここには2段ベットが備え付けてあるのだ。ちょっと子どもっぽいって?俺はわりと好きなんだ。部屋自体のスペースはそこまで無いとは言え、そんじょそこらの格安ホテルよりよっぽどいいんじゃないか?

 早速人数分の部屋を取る、ここがいっぱいになってたら困ったことになったトコだった。

 2つあるうちの2段ベットのうち、我先にとキノガッサは片方のベットの下段に潜ってしまった。俺らが悪い奴じゃないってわかったからか、だいぶ慣れてきたな…。『じゃぁ、明日も会社だ。もう寝よう』といいながらユウガはキノガッサの行ったほうのベットの上段へ上って行った。俺は自然に空いてるスペースに吸い込まれる。

 明日はおそらくあの謎のポケモンの生態を会社の機器で調べることになるのかなぁ…とか考えながら俺は眠りに付いた。
 
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